ニーハオ、ニホンコンです。
読書ブームはまだまだ続く。
最近は香港が話題の著書を見つけ、もうその人三昧。
ちょうどニホンコンと同じ返還前後に数年間香港に滞在していた
らしく、その頃の話題が詰まった1冊は、当時の空気や湿気が
手に取るように伝わり、思い出アルバムを見ている気分。
まるで酒飲みがお気に入りのブランデーあたりをちびちび飲む
かのように、日々少しずつ味わうようにして読み進めているところ。
そんな時のロケーションは大切なわけで、本読み場選び。
世界中を旅し、そして今は何故か縁あって香港で暮らして
いる友人が「世界一の喫茶店」と称すクラシック喫茶に
行ってみることにした。
いやもう、入った瞬間「世界一!かどうかはそんな世界見てないから
知らんけど、とにかくこの別世界っぷりナンバーワン!」が決定した。
この長ったらしいグランプリ賞を今すぐダブルの黒スーツに身を纏った
マスター、ダブルさんに渡しに行きたいくらい。
いやー、凄かった。もうジブリの映画のストーリーに出てきそうな所で
一歩足を踏み入れた瞬間から異空間。
昭和の匂いが漂い、使い古されたソファーや椅子たち。奥行きの広い
店内は読書をするのが精一杯くらいの明るさ(というか暗さ)で、
壁には山積みのレコードとボンボン時計。突き当たりには蓄音機と
ドでかいスピーカーがあり、目の前で交響楽団が演奏してんじゃないかと
思うくらいの迫力満点なクラシックが、レコード特有のパチパチ言う音と
共に流れている。
ここはどうやらお一人様で来るお客さんが殆ど。
確かに、ひそひそ話もできないくらいの場所で、クラシックを聞くか
読書をするかくらいしかできない。要はひとりになりたい時に来る場所
ってことか。
先のダブルさん(正確にはダブルのスーツ店主)がサーブしてくれた
珈琲。その際に「コーヒーは・・・・・・・・」のテンテン部が
聞き取れず、「ハイ」と条件反射で答えるダメな自分。
ハイ アナタ コノ「ハイ」 ダメアルネ。
昔北京留学時代、餃子屋でのオーダーの説明が聞き取れず、
全てハイで答えていたらバケツ一杯分ほどの大量餃子が運ばれて来たのを
思い出し、曖昧返事はやめようと誓ったのが15年前。
香港時代、バーベキューでローカル香港人の説明をハイハイと聞いて
いたら、当たり前のようにフィッシュボール(香港版はんぺん)に
ハチミツをたっぷり塗られた。「不要蜂蜜」の意思表示をしない限り、
BBQソース代わりにハチミツを塗るのが香港スタイルということに
気づいたのが13年前。
ワカラナイことはワカルマデ聞く。
経験を持ってしても学習してない事実に愕然とする。
で、何が「ハイ」だったかというと、その後のダブルさんの行動で
なるほどと理解。どうやら一緒に持って来た「ブランデー」を入れても
よいか?ということだったらしく、これまたクラシックな入れ物に
入ったブランデーを3〜4ふりしてくれた。ソウイウコトダッタノデスネ。
店の静寂と対比するような大音響のクラシックに、空間酔いというか、
別世界っぷりにクラクラしながらこの場所を堪能する。もとより、
読書も珈琲も人生経験もひよっこレベルの自分がふらっと来てしまって
よかったのかと思うくらいの場所だが、そんな一見ニホンコンでも
心地よく過ごせるくらいの絶妙な空気が漂っておりました。
重厚で幸せな時間を過ごさせて頂きました。ごちそうさまでした。
支払った珈琲のお代、350円を申し訳ない思いで払って日常に帰りました。
先月ロシアな作家を追っかけて鎌倉まで馳せ参じたばかりに、ハートを
射抜かれた1冊の本と出会い、それを読むために訪れた喫茶店にときめく。
この軽薄っぷりを浮気と呼ぶなら、相手は人ではあるけど女性作家、
近所であるけどお店。非常に健全で合法な浮気中。
6月5日 日本/香港